恵那の暦・二十四節気「大寒」

(ひっくり返る寒さ)

 大寒とは、一年でもっとも寒さが厳しい頃のこと。日がしだいに長くなり、春へ向かう時期でもあります。しかし旧暦は一ヵ月遅れていることを考えると、冷たい空気が棘のように突き刺さるのを体感する頃です。

(寒椿の写真)

 寒波がやってきて、雪が積もる「寒の内」となりました。「小寒の氷、大寒に解く」という言葉があります。小寒の頃に凍った氷が大寒の頃に溶けるという例えですが今年はどうでしょう。

 雪には音を吸収する働きがあります。雪の日は静かに感じるというのは気のせいではないんですね。雪の別名や雪に関する言葉も数えきれないほどあります。餅雪は餅のようにふんわりとした雪。小米雪は小さな粒の雪で積もりません。降る速度の違う風景に魅了されます。

 人々が常に自然と寄り添った生活をしてきたことが分かります。古人がどのように雪と接してきたのか、感慨深いですね。雪持ちと呼ばれるデザインがあるのを知っていますか。歴史は古く家紋、お着物やお猪口等の文様にも多く見られます。

(雪持ち笹と歌川広重「木曽海道六十九次・大井」)

 「大寒の日に汲んだ水は腐らない」とか「寒の水は薬」などとも言われていました。寒さのために、水の中の雑菌が少なく、一年で最も水が澄んでいると言われています。寒の時期に作られた味噌や醤油、酒は「寒仕込み」と呼ばれて、珍重されますが、この仕込みに欠かせないものが寒の水。

 皆さん、寒の水を意識してみませんか?知っているだけでコップに注いだ水がなんだか美味しく感じるかもしれません。

 さて恵那市では、この時期にちぢみほうれんそうが旬を迎えます。葉肉が厚くなり、糖度や甘みがあると言われていますね。寒さのストレスに耐えられるよう、自らビタミンCやカロテンを増やし、また凍らないよう葉を縮める際に、デンプン等の糖質化が進んで甘みも増します。この時期だけの限定の味です。

 大寒の最終日は節分になります。そして同時に立春の前日が節分となるわけです。今年は2月2日が節分です。節分と言えば、豆をまいて鬼を退治します。季節の変わり目には邪気が入り込みやすいことから厄を払う儀式が行われていました。

 むかしは、災害、病、飢餓のような目に見えないものを邪気としていたようです。鬼はその象徴だったのですね。私が小学生の時、「今年は自分の中のどんな鬼を退治したいですか。」という授業がありました。皆さんはどうでしょう。

 いにしえからの行事は、無病息災、五穀豊穣、子孫繁栄を重んじ、神に祈ることを欠かせませんでした。混乱の昨今、先人達の知恵をもう一度見直したいと思っています。

 しんと冷えた静かな寒の内。お稽古に励んだり、濁った感情を払ったり。人は糖度や甘みを増すことは出来るのでしょうか。氷を透かすように澄み切る感情とは何かを考えさせられる時期になりそうです。

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kotomi mizuno

恵那市明智町出身。Uターン在住。着付け師。 
山での暮らしに魅了され、お着物の沼に落ち、お出汁は毎日引いています。
えなえーるでは暦、節句を担当。季節の移ろいを感じて表現していきたいです。
髪は盛りたい願望あり。日々是好日。

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